祈りの根

祈りの根っこにあるもののひとつは、「先に逝く」ということにあるような気がする。

久しぶりに

久しぶりに近所で猫を見かけた。猫は、黒と白のまだら模様で、駐車場に停まっていた黒い車の背後に、隠れるようにして小走りで駆けていった。少しして、車の下から猫が現れると、そのタイミングでたまたま通りかかった通行人にびっくりして、また車の下へ走って消えた。それからは、もう出てくることはなかった。

さえずり

花が散った桜の木々の上や近所のマンションの屋上のほうから降ってくるように、鳥のさえずりが聴こえてきた。耳に心地よく、リズムよく響いていた。暖かい風と相まって夢見心地になった。

弱音の音色

弱音は美しい音色を奏でないこともある。むしろ、奏でないことのほうが多い。弱音を吐き出すというのは、悲しい音をしている。音でないことさえあるほどに。

海に関する言葉

山だらけの、海のない街で生まれ育ったから、僕にとっては海がどこまでもいっても概念のように感じられる。海は行ったことがあるし、滞在もしたことはあるけれど、やっぱり生活のなかにずっとなかったというのは大きいんだと思う。海に関する言葉も、満潮や干潮も、凪も、体感を伴っていない。どこか、空想の世界の言葉のようになっている感じがする。